基礎と臨床を結ぶトランスレーショナルリサーチ

医学部の研究室では多くの研究が行われています。これら研究は、病態の解明、予防や治療法の確立によって病気を克服することを目的にしていますが、実際の臨床とかけ離れた基礎研究が少なくありません。私たちは、先進的バイオテクノロジーを用いた基礎研究を、臨床に還元するトランスレーショナルリサーチを行っています。現在、「遺伝子情報を利用した薬物治療」や「病態を反映させるマーカーの確立」をテーマに検討を進めています。遺伝子情報を用いた薬物治療では、S1という抗癌剤と薬物代謝酵素の遺伝子多型に注目し、遺伝子多型によりS1の薬物代謝が影響を受けることや副作用の頻度が異なることを初めて報告しました。患者さん個人の遺伝的体質に即したテーラーメード治療の発展に寄与したいと願っています。

21世紀最大の感染症 -結核感染症- に対する新規ワクチンの開発

結核感染症は昔の病気のように思われるかもしれませんが、実は21世紀においても最も深刻な感染症の一つであり、全世界で年間約800万人の新規発病がみられ、250万人以上もの患者が死亡しています。本症による社会的損失は多大であり、WHOの緊急宣言にもあるように結核感染症に対する新たな予防戦略が求められています。現在のところ、成人の結核感染症に対する有効なワクチンはなく、日本で広く用いられているBCGワクチンもその予防効果は全く不十分であり、さらに生菌免疫であるため免疫抑制状態の人に投与すると感染症を発症するリスクがあります。そこで、私たちの教室では、この21世紀の最大の感染症である結核感染症に対して有効で、かつ安全なワクチンを開発するための研究を精力的に続けています。今までに、生体で最も強力な抗原提示細胞である樹状細胞(dendritic cell, DC)を用いて、DCに結核菌由来の防御抗原を遺伝子導入することによって、結核感染症に対する強力な感染防御能を誘導することに成功しました。現在、このDCを用いた細胞ワクチンの有効性をさらに高めるための研究を行っています。

腫瘍免疫

肺癌は今日最も深刻な病態のひとつであり、年間6万人と本邦の癌死においても最多となっています。現在標準的に用いられている治療も日々発展がみられ、我々もその研究の一躍を担っています。しかしながらその効果は未だ十分とは言えず、多くの副作用を呈するなどの問題点もあります。そこでより効果的で安全な治療法の開発も望まれています。免疫療法は生体の反応を利用しつつ標的を排除する治療法として期待されています。私たちは、既に感染症に対する多くの免疫治療の開発を手がけてきました。これらの技術と腫瘍免疫を複合することにより、より有効な癌ワクチンの開発を目指しています。感染症の反応を利用した抗腫瘍樹状細胞ワクチンの開発はその一つで、米国との共同研究も含めて活発に研究を行っています。

気道上皮細胞 ~最前線としてのバリア機能と慢性気道疾患病態への関与~

ヒトは呼吸によって外気を肺内に取り込みます。外気中には種々の外来異物や病原微生物が含まれていますが、気管・気管支の内腔を覆う「気道上皮」は体内に取り込まれた外気と最初に接触する組織で、外来異物に対するバリアとして極めて重要な役割を果たしています。また、気管支喘息やCOPDなどの慢性気道疾患において、気道上皮は粘液過剰産生や気道炎症増悪など疾患病態の形成に深く関与することが知られています。

私たちの教室では、気道上皮の様々な機能について主に「ヒト気管上皮細胞の初代培養系」を用いて多面的に研究しています。これまで、気管上皮細胞におけるToll-like receptorリガンド刺激による生体防御や気道炎症に関連するサイトカイン・ケモカインの産生増強やそのメカニズムの解析、またTh2サイトカイン(IL-4, 13)による気道粘液過剰産生機序について報告してきました。現在は、気道上皮における「自然免疫と獲得免疫のクロストーク」にも着目して、精力的に研究に取り組んでいます。