検診で胸部異常影を指摘されて受診する患者さんが多く、呼吸器内科が中心となって診断や治療に当たります。サルコイドーシスは肺、神経、心臓など多くの臓器に病変を生じるので、診療を通して肺だけでなく、幅広く全身を診る能力が身につきます。呼吸器内科ではサルコイドーシスの診療に積極的に関わっており、患者数も非常に多く、診療実績は日本有数です。厚生労働省びまん性肺疾患に関する調査研究班として、全国規模の疫学調査や難治症例の治療法の確立といった課題に取り組んでおり、2008年より日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会の事務局も務めています。サルコイドーシスはTh1サイトカインを中心とした疾患であり、免疫学的手法を用いた基礎的研究も盛んに行っています。

間質性肺炎の診療と研究は当科が最も注力している分野のひとつであり、多くの患者さんが入院・通院されています。また、「厚生労働省びまん性肺疾患に関する調査研究班」の一員として、臨床研究や新たな治療の開発・研究にも尽力しています。間質性肺炎と一言で言っても疾患は多岐に渡ります。吸入抗原・物質によって起こる過敏性肺炎やじん肺、薬剤性肺障害、膠原病やサルコイドーシス、原因不明である特発性間質性肺炎などです。診断が難しい印象を受ける疾患ですが、系統的なトレーニングを積めばその理解は難しくありません。特に胸部レントゲンやCT読影は重要ですが、当科では卒後4~6年目の医師を主役とする画像読影を中心とした研究会(びまん性肺疾患研究会)が30年以上続けられています。このような研究会が若手医師の診断能力の向上に貢献しています。また、当科では外科的肺生検で得られた肺病理組織の詳細な検討も実施しており、正しい診断と画像読影へのフィードバックを可能としています。診断に当たっては、米国Mayo clinicなどへの肺病理組織のコンサルテーションも積極的に行い、より深い症例の検討を行っています。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、主に喫煙を原因として気管支や肺胞に慢性炎症が生じ、肺機能障害が進行する疾患で、世界的疫学推計によると2020年には死亡原因の第3位になると考えられています。また、我が国の疫学調査においても患者数は約530万人に達することが推定されており、喫煙人口の持続と高齢化社会の深刻化を背景に患者数は今後ますます増加することが予想される疾患です。

当科では、積極的な予防、早期診断、治療に重点を置いています。特に、包括的管理が求められており、症状の改善や悪化の予防を目的に、禁煙指導、薬物療法、酸素療法などを組み合わせた治療を行い、外来呼吸リハビリテーション療法も積極的に取りいれております。また、呼吸生理検査や画像解析を用いた多面的な評価を行い、COPD診断や治療に関する臨床試験にも取り組んでおります。さらに、冠動脈疾患、骨粗鬆症、消化性潰瘍などの多彩な併存症を有しやすいことも知られており、内科医としての総合的な全身管理を心がけております。

気管支喘息は、人口10万人当たり約6000人にみられる比較的一般的な呼吸器アレルギー疾患です。近年は吸入ステロイド療法の普及、発展により、症状のない快適な生活を送ることができるようになってきました。しかし、一方で未だ年間約2000人が喘息により死亡されており、難治症例や罹病期間の長い低肺機能症例の管理、リモデリングの抑制など未解決な問題も多く残されています。

浜松医科大学呼吸器内科喘息グループでは、ガイドラインやエビデンスに基づいた疾患管理を提供しながら、よりよい喘息コントロールを目指した臨床試験に随時取り組んでいます。日常診療においては、メサコリン吸入試験による気道過敏性の評価、呼気一酸化窒素濃度測定による気道炎症の評価、定期的な肺機能検査によるフォローアップを積極的に行っています。また、医師と患者との良好なパートナーシップに基づいた患者教育にも力を入れています。

現在肺癌によって本邦で年間約65000人が死亡しており、これは全癌死の約19.5%を占め臓器別癌種で最多となっています。早期診断が難しいため診断時に進行期である症例が非常に多く、この場合化学療法が対応の中心となります。近年、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤やVEGF阻害剤など新たな治療法の開発が目覚ましいのですが、未だその成果は満足できるものではありません。今後もより有効な治療法の開発が強く期待される分野といえます。

当科では、これまでシスプラチン毎週分割投与とS-1併用療法についての臨床第二相試験やS-1における代謝酵素CYP2A6の変異の影響評価、高齢者に対するカルボプラチン及びジェムザール隔週投与の有用性をジェムザール単独投与群と比較する臨床第二相無作為化試験(GEEP)などを行い新たな情報を広く発信してきました。現在もいくつかの臨床試験が関連病院の協力を頂きながら現在進行中です。

肺癌診療は、さらに緩和医療や精神的ケアを含めた全人的対応が必要とされる分野でもあり、また上記の通り臨床腫瘍内科医としての側面も強く、これらの分野に興味がある方にとって呼吸器内科医としての専門性を持ちながらこれらを学んでいくことは非常に魅力的であると我々は考えております。

市中肺炎や院内肺炎をはじめ呼吸器感染症についてはJRS、IDSA/ATS、ERSの各種ガイドラインを踏まえつつ、最新のエビデンスに基づいて治療を行っています。これまでに成人気道感染症診療に関する日本呼吸器学会主導の臨床研究への参加や当大学関連病院での高齢者肺炎の治療成績の検討、市中肺炎の炎症性マーカーに関する臨床研究、結核や非結核性抗酸菌などの抗酸菌感染症に関する研究などを行って参りました。さらに結核診療において、当大学の関連病院は静岡県内の結核診療の大部分を担っています。

免疫抑制状態の感染症などは他科からのコンサルトも多く、時には呼吸器分野に留まらず全身を診る視点も必要となることがあります。さらには高齢化社会への移行に伴い肺炎の罹患・死亡率の上昇が懸念され、呼吸器感染症は今後も益々重要な分野となるものと予想されます。

最近では高齢者院内肺炎に対してDRPMで治療された患者さまの薬物血中濃度を測定し、population解析を用いてPK/PDの観点から有効な薬物血中濃度の達成率を検討する臨床研究や慢性肺アスペルギルス症に対する抗真菌薬の治療効果の検討に関する臨床研究、入院市中肺炎患者における抗菌薬の点滴薬から内服薬へのswitch療法に関する臨床研究など幅広い分野で臨床研究を行っております。また、原因不明の難治性感染症に対しては、原因究明のために基礎レベルでの検証を行いながら実臨床にも還元できるよう日々追究しております。このように入院実患者における呼吸器感染症の臨床から研究分野までの幅広い知識や武器を持ちながらも、症例毎に的確な診断や治療を選択できるような呼吸器科医を目指しています。

呼吸器疾患において、画像検査は非侵襲的かつ迅速な病態の推測・把握に非常に重要な役割を果たしています。当院では最新のMulti-Detector CT (MDCT)・Dual Energy CTや高磁場MRI、FDG-PETなどが導入されており、必要な時に柔軟に対応できる体制が整っています。こういった画像検査から得られる情報量は非常に多く、放射線科医と連携して日常臨床や研究に活用しています。

これまでに当科ではびまん性肺疾患、悪性腫瘍、感染症、閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患における画像所見を詳細に解析し、臨床所見や病理組織所見、予後、治療との関連性を研究・報告してきました。現在も特発性間質性肺炎や膠原病に合併した間質性肺炎における画像所見・パターンの解析や胸部CTの三次元画像解析プログラムを用いた肺疾患の解剖学的構造解析、MRIを用いた肺動脈血流・肺動脈圧の評価、その他にもいくつかの研究が並行して行われております。今後は画像診断機器のさらなる発展が予想されますが、その結果を解析し、臨床に応用するための研究は非常に重要です。

当科では高名な放射線読影医の先生方を招き、画像読影能力の向上を目的とした研究会を定期的に開催しています。こういった研究会への参加や活発な議論は教育的な意味合いだけでなく、臨床や研究に必ず応用・還元されます。

非侵襲的な検査による早期かつ正確な診断が要求される昨今、画像解析はますます必要とされる領域と考えます。